【経済インサイド】失敗M&A列伝 東芝、DeNA…華々しい買収が一転、窮地に

 秘密裏に交渉を進め、両社のトップが合意を華々しく発表するM&A(企業の合併・買収)は、成功すれば、業界の勢力図を一気に塗り替えるほどの力がある。しかし、実際には期待通りの成果を上げられずに買い手企業の業績悪化につながることも少なくない。新たに加わった子会社の不祥事により、企業イメージに深刻な“傷”を負うこともある。上場廃止の瀬戸際にある東芝、謝罪会見が記憶に新しいディー・エヌ・エー(DeNA)を含め、「失敗M&A列伝」に名を連ねる事例を振り返った。

 東芝が経営危機に陥ったのは、2度のM&Aに失敗したからだ。

 最初は、平成18年の米原発大手、ウェスチングハウス(WH)の買収。将来的なエネルギー不足に備えるため、原発を主力事業に据える目的があり、金融機関幹部は当時のことを、「東芝の幹部社員は、WHが切り開く輝かしい未来を信じ切っていた」と振り返る。

 しかし23年、福島第1原発の事故が起きて、原発の安全性への懸念が世界的に強まり、事業の先行きは不透明になる。それでも東芝は強気の姿勢を崩さず、突き進んだ。

 買収で問題となるのが「のれん代」だ。例えば純資産が30億円の会社を50億円で買収した場合、20億円は、その会社のブランドなど、目に見えない価値に支払ったとみなす。帳簿上、資産に計上するが、その企業の収益力が下がると、取り崩す必要が出てくる。これが「減損」で、買収額が大きいほど、買い手企業は多額の減損損失の懸念を抱えることになる。WHについて東芝は28年3月期、のれん代3300億円のうち、2600億円の減損損失を計上した。

 2度目のM&Aは28年1月。WHが、もともと協力関係にあった原発建設会社を買収すると発表した。WHに比べて小規模な会社で、買収時に計上したのれん代は100億円。何か問題が起きても限定的と思われていたが、原発建設にかかるコストが想定を超えて大きく膨らみ、何と7000億円を超える損失が発生。東芝債務超過に陥った。

 この損失を小さく見せようと、WHの経営陣が社内で不適切な指示を出した疑いがあり、監査法人の調査により、東芝は度重なる決算発表の延期を余儀なくされた。連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請し、ようやくWHの切り離しを決めたのは、今年3月のことだ。

 なぜ、原発事故後に軌道修正できなかったのか。買収を決めた西田厚聡氏、原発畑出身の佐々木則夫氏の歴代社長が推し進める中で、国策でもあった同事業が聖域化したからだとみられる。一方で、原発で世界一という自負のあるWHの経営陣は東芝の言うことを聞かず、ガバナンス(企業統治)は形骸化していた。

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 数年で見切りをつけたケースもある。キリンホールディングス(HD)は23年にブラジルのビール大手スキンカリオールを約2000億円で買収。人口増が見込めない国内では、市場が先細るという危機感が経営陣の背中を押した。

 当時の三宅占二社長は、年10%程度の成長が見込まれていたブラジル市場に期待していた。発表会見では「これだけ有望な案件はまれだ」と胸を張った。

>>2以降に続きます

2017.4.25 17:00
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