【コラム】新聞の世論調査は中立な「報道」とはいえない 「共謀罪」「テロ等準備罪」? 誘導は明らかだ 東洋経済 [04/26]

新聞の世論調査は中立な「報道」とはいえない
共謀罪」「テロ等準備罪」? 誘導は明らかだ
薬師寺克行:東洋大学教授
東洋経済:2017年04月25日
http://toyokeizai.net/articles/-/168892
(全文は掲載元でどうぞ)

同じテーマについての世論調査なのに、新聞によってあまりにも結果が違うため、いったいどれが本当なのかと思うことが増えている。
国会で審議が始まった「組織犯罪処罰法改正案」についての世論調査結果もそうだ。

法案を支持する産経新聞や読売新聞の結果は「賛成」が多く、批判的な朝日新聞毎日新聞の調査結果は賛否が拮抗するか、「反対」が多い。
調査手法に科学的あるいは客観的とはとてもいえない恣意的なからくりが組み込まれているためだ。
その結果、世論調査は新聞社の主張を補強するための道具になっている。
産経と朝日で記事のトーンはまったく異なる

具体的な記事を紹介する。まず法案成立を支持する立場を取っている産経新聞とFNN(フジニュースネットワーク)の合同調査の記事(4月18日付朝刊)の見出しは「テロ準備罪、自公層7割支持?野党層は反対多数」で、記事も「賛否を支持政党別にみると、今国会で成立を目指す自民党は75.1%、公明党は70.6%と、いずれも高い割合で賛成が多かった」と与党支持層で圧倒的に法案賛成の率が高いことを強調している。

続いて民進党支持層で賛成が25.8%、反対が63.6%などだったことを紹介し、肝心の全体の賛否の割合については記事後段で賛成が57.2%、反対が32.9%であり、過去の調査結果と比較して「安定して賛成が反対を上回っている」としている。
記事の最後では、民進党などが批判を強めているが「世論に大きな影響を与えるほどには浸透していないようだ」と、世論調査結果を報じる記事であるにもかかわらず野党を批判する記事に仕立てている。

一方、法案に反対の立場である朝日新聞の記事(4月18日付朝刊)の見出しは「『共謀罪』賛否拮抗」で、本文は「賛成が35%、反対が33%と拮抗した」となっており、産経新聞の結果とかなり異なっている。
朝日新聞はさらに、法律が改正されると「一般の人への監視が強まる不安を、どの程度感じますか」という質問をしており、結果は「『大いに』『ある程度』を合わせた『感じる』が59%。
法案に『賛成』の人でも半数近くが不安を『感じる』と答えた」としており、こちらは記事全体のトーンが法改正に否定的となっている。

法案に賛成の立場を取る読売新聞は、記事の中心を北朝鮮問題に当てており、法案については「賛成は58%、反対は25%」と簡単に触れているだけだった(4月17日付朝刊)。毎日新聞は3月に実施した調査結果の記事があるが(3月14日付朝刊)、結果は「反対は41%で、賛成の30%を上回った」としている。
数字だけを見ると、賛成は産経新聞の57.2%が最高で、最も低い毎日の30%とは倍近い開きがある。ここまで違うと世論調査自体を疑ってかかるしかない。
法案の呼称、説明や質問の仕方で回答を誘導
質問の仕方や質問の表現で調査結果が大きく違ってくることは、世論調査の研究者の間ではよく知られている。
質問項目について十分な情報を持たず理解もしていない回答者は、質問のされ方によって回答が簡単に左右にぶれるのである。
したがって実施する側が何らかの意図を持つ場合、自分の都合のいいように結果を操作することが可能になる。
今回の場合も各新聞社の質問の仕方に意図的としかいいようのない「工夫」が凝らされている。

まず、「組織犯罪処罰法改正案」というわかりにくい名称の法案についてマスコミがいくら報道しても、多くの国民がその内容を積極的に把握しようとはしないだろう。
したがって、法案の意味や問題点を理解することは難しい。
そのため、世論調査では法案の内容をどう説明するかが回答を大きく左右することは言うまでもない。

(以下省略)


薬師寺 克行 :東洋大学教授 1979年東大卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊「論座」編集長、政治部長などを務める。
2011年より東洋大学社会学部教授。専門は現代日本政治、日本外交。
主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)など。
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